朝柏閏八河辺の小竹の芽のしぬびて宿れば夢に見えけり  作者不詳

朝柏《あさがしは》《うる》八河辺《はかはべ》の小竹《しぬ》の芽《め》のしぬびて宿《ぬ》れば夢《いめ》に見えけり 〔巻十一・二七五四〕 作者不詳

 此歌は「しぬびて宿《ぬ》れば夢《いめ》に見えけり」だけが意味内容で、その上は序詞である。やはり此巻に、「秋柏|潤和川辺《うるわかはべ》のしぬのめの人に偲《しぬ》べば君に堪《た》へなく」(巻十一・二四七八)というのがある。この「君に堪へなく」という句はなかなか佳句であるから、二つとも書いて置く。このあたりの歌は、序詞を顧慮しつつ味う性質のもので、取りたてて秀歌というほどのものではない。